Quarter/L (4) AXからDOS/Vへ

Quarter/L初代モデルが発売された約3年後の1991年に日本のPC業界の構造を変える大きな出来事があった。 OADGの発足と “DOS/V”規格である。 1990年ごろの日本のPC業界は巨人 NECのPC98, それを追う富士通、日本IBM, 東芝の独自モデル、ソニーを含む家電メーカー中心のAX連合の各社がIntel CPUと MS-DOSを採用した相互に互換性のないPCを販売していた。この状況を打破すべくマイクロソフトジャパン、日本IBMを中核として OADGという団体を結成して、”DOS/V”という共通の規格でPCを販売することになった。(この経緯については「僕が伝えたかったこと、古川享のパソコン秘史に詳しく書かれている。)

OADG-AX-Logo

OADG, AX, Novellの3種類のロゴのついた Quarter/Lのカタログ

 


DOS/V規格はハードウェアは日本語キーボード以外は海外で各社が販売しているIBM-PC互換機と同一のもので、日本語表示は VGA Graphics (640x 480)の上にソフトウェアで描画して表示するものである。NECのPC98やAXでは日本語は専用ハードを使った専用のモードで表示していた。 CPUの処理速度やメモリー容量の向上、Graphicsの解像度の増加により、日本語表示をすべてソフトウェアで処理することが可能になっていたので、この動きは技術的には必然であったが、このタイミングでNEC以外の全社がこの規格を採用したことには大きな意味があった。 DOS/Vの技術的基礎は日本IBMが作ったもので、これを全社に公開したのは、IBM全体をみても日本だけ特殊な規格で各社と互換性のない市場であることに問題を感じていたのが理由かもしれない。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

最初のDOS/V PC 日本IBMのPS/55 5535S http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1029/tp10.htm より

DOS/V規格はハードウェアは、当時すでに海外ではコモディティ化が進んでいたIBM PC互換機とそのパーツが、そのまま日本でDOS/Vマシンとして使えることも意味していた。これはPCメーカーの立場から見ると、部品の調達コストを下げたり、海外メーカーからのOEM調達を容易にする、というメリットもあったが、逆に海外メーカーの日本市場への参入を容易にする、というデメリットもあった。当時 「ガラパゴス化」という言葉はまだなかったが、ガラパゴスだった日本のPC業界に「グローバルスタンダード」が流れ込む結果にもなった。

また、DOS/V規格のPCが各社から提供されるようになると、その構成パーツである、マザーボード、メモリー、CPU, グラフィックスボード、電源、ケースなどが、すべてIBM-PC互換の標準仕様となり、簡単に交換ができるようになった。その結果、PC全体を秋葉原で買ってきたパーツで組み立てたり、メーカー製PCの部品を交換することが流行しだした。 DOS/V PCの自作記事を中心にした”DOS/V magazine” (1991年創刊)などの雑誌が部品や新技術の紹介をするようになり、マニアにとってはPCは使って遊ぶものから、自分で組み立てるものになった。当時、PCのパーツの値段は日米で差があったので、USに出張に行く度にパーツを買いに行くソニー社員も多かった。

DOSVmagazine

DOS/V マガジン創刊号 (1992.1月)

 

冷静に考えると、メーカーが売っているものとマニアが部品を買ってきて組み立てるものに大差が無い、という状況は産業構造としては危ない状況である。 DOS/Vは日本だけの現象であったが、1990年代は台湾のODM/OEMメーカーによるPCの製造が急速に拡大した時期でもあった。 Acerのように元々自社ブランド製品から始まったODMメーカーと、シャープ買収で有名になったホンハイ (Foxconn)のように金属部品メーカーから本体製造まで手を広げたメーカーなど色々な企業が、台湾政府の国策もあり、IBM-PC互換機およびその部品の製造を拡大していった。日本を含む世界中のPCメーカーはこれらの台湾ODMメーカーにPCの製造や設計を委託するようになっていった。2000年以後に問題になるデジタル家電の国内製造空洞化のひな形のようなものである。

また、DOS/VのおかげでDELL, COMPAQ, HPなどの米国メーカーのPCがそのまま日本で使えるようになり、これらのメーカーの日本進出が加速した。1991年にはCOMPAQの低価格モデルが「コンパックショック」というニュースになったりもした。

広告

Quarter/L (4) AXからDOS/Vへ」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: Quarter/L (7) VOD と ODM | Good Old Bits

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中