VAIO (5) 「インテル入ってる」に入ってるものは?

 

最初のVAIO PCV-90/70, 最初のVAIO NOTE PCG-707/705 はどちらもCPUのスピード違いで値段の差がある2モデルが発売されている。これには深い理由がある。

単純に考えると、CPU speedが10%程度早くても、通常使用に差があるとは思えない。PC市場に再参入したばかりのソニーにも、2モデルわざわざ販売する意味があったかはよくわからない。販売チャネル別に商品を分けるとか、の営業政策に利用できないわけではないが、まだ少ない台数で、2モデルの生産・販売数の管理をするのはあまり効率がよいとも思えない。

これはどちらかといえばCPUメーカーであるIntelの「要望」によるものである。

現在でもそうだと思うが、クロックスピードの違うCPUはそれぞれ別の回路図(マスク)から製造されるわけではない。同一のマスクから一挙にウェファー上に数百個のCPUを作り出し、その一つづつを動作テストする工程で、安全マージン込みで、製品として動作可能な最高速度が測定され、そのスピードのCPUとして個別パッケージにされるのである。製造上のアナログ的な条件が関係するのでそのようなことになるのである。

 

Wafer_with_Pentium_chips

Intel PentiumとそのWafer  (Wikimedia.org より)

そうすると、同じウェファー上に作られたCPUのうち少数の「極上品」が一番速いCPUとして売られ、「平均以下」の多数のCPUは「遅いCPU」として売られることになる。半導体製造というのは1枚のウェファーから何%の良品を作り出せるかという「歩留まり」が致命的に重要な経営ファクターになるが、CPUの場合は「極上品」しか出荷しないと、歩留まりは、採算ラインに乗らない。

たとえば、最高速度 200MHz というCPUがあった場合、もしCPUの「仕様」が200MHzしかなかったら、200MHzの動作テストで不合格になったチップは「不良品」として廃棄しなければならない。ところが「180MHz, 166MHz, 150MHz」という別の「仕様」もある、ということにすれば、「不良品」のはずであったチップから多くの「製品」がとれることになる。 (逆の見かたをすれば、十分な歩留まりの取れる「仕様」を基本性能(一番遅いクロック)にしておいて、たまたま速いクロックで動作するものを選別して高い値段をつけているともいえる。)

 

この一連のテスト・選別プロセスのことを Bin Split という。 CPUはその後、どんどん複雑になりキャッシュメモリーを内蔵したり、複数のCPU coreを内蔵したり、しているが、同様のBin splitは現在も行われていると思う。CPUスピードでけではなく、利用可能なメモリー量、動作可能なCPU coreの数、などについても同様であると思う。

このBin splitの結果、PCメーカーが性能の一番よい「極上品」しか買わないと、「並」のCPUが余ってしまい、Intelは困るのである。そこで、PCメーカーに「要望」が強く伝えらるのである。つまり「極上」と「並」をあわせて買ってくださいよ、「並」は安くしておくから、とか「お勧め」されてしまうのである。これをあからさまに「強制」すると「抱き合わせ販売」になり各国の当局の「お咎め」を受けてしまうので、あくまで「お勧め」「お願い」なのである。

この「お勧め」は非常にシステマチックになっていて、PCメーカー各社にIntelから4半期ごとの「CPUロードマップ」が極秘資料として送られてくる。それには、4半期ごとに、PCのクラスを”High end”から “Low end”までの4クラスぐらいに分けてあって、それぞれにどのタイプ・スピードのCPUを搭載するべきか、わかりやすく書いてあるのである。親切にCPU以外のメモリー・HDDサイズや販売価格帯まで書いてあるのである。

それを見て実際にどういうPCを作るかは各メーカーの自由なのではあるが、ここにもう一つのツールが出てくる。 “Intel Inside”である。

 

500px-Intel_Inside_Logo.svg

Intel Inside ロゴ (1991)

“Intel Inside”といえば、通常、PCに張ってあるステッカーとか、テレビCMの最後に「ピンポンパンポン」というサウンドロゴとともに表示されるロゴを思い浮かべるが、これは Intelが考え出した天才的なマーケティングツールである。

 

言うまでもないが、Intelは最重要部品であるとはいえ「部品」メーカーである。1980年代のように、PCは会社の専門家やマニアが購買決定をしていた時代なら、Intelとしてはそういう専門家・マニアにIntelという会社と製品を理解してもらっていればよかったのであるが、PCが個人向けの家電のようなものになっていくと、購入する顧客にはCPUメーカーは見えなくなり、COMPAQ, DELL, Appleといったブランドしか認識されなくなってしまう。長期的にはそれは問題だと考えたIntelは1991年から “Intel Inside”というキャンペーンを開始する。

これはPCメーカーが”Intel Inside”のステッカーを貼って出荷するとCPU価格の数パーセントの報奨金がIntelからもらえる、という仕組みである。この「報奨金」はMDF (Market Development Fund)という名目で支出され、受け取ったメーカー側は、Intel Inside対象PCの広告宣伝費にしか使えない。さらにその広告には Intel InsideなどのロゴをIntelの指定する条件でいれないといけない。たとえば、TV CMだと必ず Intel Inside ロゴだけが映っていてサウンドロゴを慣らす数秒が必要になる。

PCのビジネスは家電に比べてメーカーのマージンは薄く、CPU価格の数%というのは収益上大きな意味をもつ。したがって、競合メーカーが Intel Insideによって実質的なCPU価格の値引きをうけるなら、自社もそれに従わないと価格競争上不利になってしまう。そのため、ほぼ全メーカーがこの Intel Inside のステッカーをPCに張り、IntelのMDFを使ってIntelロゴを自社の広告にいれるようになった。

IntelAd1991

1991年のIntelの広告。 これを見た各PCメーカーの社長はどう思ったことか。 http://www.computerhistory.org/revolution/digital-logic/12/285/1585 より

この仕組みは1990年代後半に完全にPC業界のエコシステムの一部になっていていた。また、このMDFの還元率をIntelは様々な理由をつけて増減するようになり、それをPCメーカーの行動をコントロールする手段の一つにしていた。

 

前半に述べた “Bin split”で様々なスピードのCPUを購入するIntelからの「お勧め」にはこの Intel Insideの還元率という圧力が付随していたのである。巧妙な「アメとムチ」である。よく考えると、自分で部品代としてIntelに払ったお金を戻してもらって、いろいろ「お願い」を聞いて、そのお金で自社の広告でIntelの宣伝をしないといけない、という悪魔のような仕組みである。

 

ソニーも製品のIntel Inside ロゴステッカーや印刷広告でのロゴ表示はしていた。ただ、テレビCMでの Intel Insideとサウンドロゴは、ソニーのCIを侵食してしまいそうなので、いれてない場合が多い。

珍しく Intel Insideが入っている VAIO 505のCM

ところで、”Intel Inside”はあまりにもうまく行ったマーケティングだったので、「俺が考えた!」と主張する人が多いらしい。(ソニーにWalkmanの発明者が何人もいたのと同じ。) どうやら、日本で考えられたものらしい。1990年頃にインテルジャパンと電通が「インテルはいってる」というコピーと “Intel in it” というスティッカーをPCに張るというマーケティングプログラムを考案して日本市場で始めた。この頃のNECのPC98のカタログには”Intel in it”というちょっと違ったロゴが印刷されていた。

 

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“Intel in it” ロゴのある PC98の広告 (1992) http://www.os-museum.com/catalog/catalog.htm より

実は、この時の電通のインテル担当者は直前までマイクロソフト担当で、その担当替えのときにマイクロソフト株式会社(通称 MSKK, Microsoftの日本法人、現在の日本マイクロソフト株式会社)の古川社長(当時)が、ドルビーロゴのように小さく裏に表示するのではなく、広告などに大きく使う、表示した回数をポイントにして還元する、テレビCMにもサウンドロゴを挿入する、などのアイディアをその電通担当者に「餞別」として提供した、というのが真相らしい。

その後、日本市場でこの「インテル入ってる」がうまくいったのをみたIntel本社が”Intel Inside”という名前に変更して1991年に全世界に展開した。”Intel in it” だといやらしいニュアンスがあるらしい。

 


(声はショーンKではなくクリス・ペプラーの弟アラン・ペプラーらしい)

その後、Intelは悪乗りをしはじめて、クリーンルームで働くエンジニアをモデルにしたキャラクター (通称 Intel Bunny People) を使って自社のCPUのCMなどを流すようになった。 Santa ClaraのIntel本社のロビーには売店があって、あの銀色の宇宙服みたいなのを着たキャラクターの人形まで売っていた。

 

bunnypeople

“Intel Bunny People”の人形。 COMDEXなどで大量にばらまかれた。 http://www.jeffbots.com/bunnypeople.html より

 

Intelのこのプログラムがうまく行ったのを見たMicrosoftは数年後に同じことをはじめた。これが “Designed for Windows” ステッカーのプログラムである。現在でもPCの表面には IntelとWindowsのステッカーが仲良く並んで貼られている これについては、別途記する。

win95_design

Designed for Windows 95のロゴ。 (これ以前にはなかった。)

 

 

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VAIO (5) 「インテル入ってる」に入ってるものは?」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: VAIO (7) 「マイクロソフトも入ってる」, Designed for Windows, WHQL | Good Old Bits

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