General Magic MagicLink (11) PIC-2000, Pen Computer の歴史

 

ソニーも翌1995年に、 PIC-1000のマイナーチェンジ版である PIC-2000をやはり米国向けに発売した。 改善点は

PCMCIAスロットを2個に。 (SRAMカードとPager Cardなどが両方同時に使用可能に)
LCDにバックライト追加
モデムを9600 bpsから 14.4K bpsに「高速化」

で、スロットの分、5mmほど分厚くなった。

 

 

この PIC-2000が発売された1995年は時代のターニングポイントだった。ひとつは Windows 95のリリースで、PCが Geek, Nerd, Professional の道具から、一般家庭の道具の一つになりはじめた。もうひとつは Mosaic (後のNetscape)ブラウザがトリガーとなったWWWとインターネットの爆発的普及の開始であった。

 

Windows 95 Launch Video

 

 
そういう状況で, AT&T PersonaLinkや AOLという特定のオンラインサービスにしか対応していない Magic Cap は、世の中のインターネット騒動に完全に乗り遅れてしまう。急いで、3rd Partyを探してきて “Presto! Browser” “Presto! Mail” というインターネット用のブラウザーやメールのアプリを用意するが、状況を改善するには至らなかった。

 

この1990年代前半は、General Magic 以外にも様々なポータブル端末が登場した時期でもあった。 “Pen Computing”という雑誌があったぐらいで、様々なものがあった。下記にそのうちいくつかを挙げる。

 

Microsoft Pen Windows.

Windows for Pen Computing とも言われる Windows 3.xの Touch Pen 対応版。1992年リリース。 PCは Tablet Computerと呼ばれていた。一部のキーボードが使えない特殊な用途(工事現場、病院など)に高価な業務用PCとして一部のメーカーが製造していた。

samsungpenmaster

Pen Windows 搭載のSamsung Penmaster (1992) https://retrocosm.net/2012/01/01/retrochallenge-samsung-penmaster/ より

 

Bill Gatesは、Pen Windowsに相当のこだわりがあったようで、一度も成功しなかったのに、Windows 95対応版、Windows XP対応版のPen Windowsはリリースされ続けている。最近でも Windows 10用のPen対応のソフトウェア “Windows Ink”がリリースされていて、 Microsoft Surfaceなどで使用することができる。25年もトライしつづけているのである。

 
PenPoint OS.

Go Corporation という会社により独自開発された Pen Tablet PC用のOS. これを最初に搭載したのはなんとIBMの “Think Pad” (1992年)であった。この製品は失敗に終わり、その後、IBMは ThinkPadという商標を Notebook PCに使いはじめ、哀れ初代 The Think Padは “Think Pad model 700T”に格下げされてしまう。

1992-thinkpad-700t-portpen-basedcomp-1025x1024

最初のIBM “ThinkPad” は PenPoint 搭載のタブレットPCだった。 (1992) https://www.slashgear.com/lenovo-thinkpad-20th-anniversary-celebrated-with-tribute-and-legacy-collection-05250593/ より

 

IBMに捨てられた PenPoint と Go Corporation は今度は AT&Tに拾われる。 AT&Tの半導体部門が開発した HobbitというCPUを搭載した “Eo”というタブレットPCのOSとして採用される。”Eo Personal Communicator”は Go CorporationからSpin outした会社で、製品を発売する前に AT&Tにより買収されている。 Eoは1993年にAT&Tの製品として発売されている。その後、Go Corporation 自体も1994年にAT&Tに買収される。OSもハードもCPUもAT&Tのものになったのであるが、なぜかAT&Tはその直後にCPUのHobbitの開発製造を中止してしまい、それとともに GoもEoも消え去ったのであった。

eo-440

PenPoint OSを搭載した AT&T EO-440 (1993) http://www.oldcomputers.net/eo-440.html より

 

つまり、AT&Tのある部門が General MagicとTelescript Serviceを開発する一方、別の部門がGo/Eoを開発していたのである。建前としては業務用と家庭用に分かれてはいたのであるが、それほど当時のAT&Tは巨大であったともいえる。ちなみに、Eoのハードウェアの量産設計と量産は松下が受注していたらしい。

Go Corporation の創業者 Jerry Kaplan はGo 創業時のことを”Start Up!”という本に書いている。失敗だったこの会社のことを率直に語った本として有名である。翻訳も出版されている。

 

 
Eoの社長はAlain Rossman という人が当時やっていて、この人はAppleでJoanna Hoffmanと共にMacのEvangelistだった。その後、Joannaと結婚して、General MagicにいたJoannaと夫婦でPen Computerの会社関係者だったわけである。 Alainは Eo/Goが行き詰った後、Unwired Planetという会社を創業し、携帯電話用のブラウザーとその規格を開発した。 WAPと呼ばれるそのシステムは、日本ではDoCoMo以外の KDDI, J-Phoneの携帯電話用のブラウザとして採用されていた。(いわゆるガラケーのモバイルWebサービス。)海外でもiPhone以前の”Feature Phone”のブラウザ規格としてよく使われた。 Uniwired Planetは一時期 OpenWaveという社名も使っていた。この会社はスマホ時代には当然生き残れなかったのであるが、Alain Rossmanはその後 Vuduというアメリカで有力な動画配信サービスを創業しWalmartに売却している。 (2010)

 

Eoが採用したAT&TのHobbitというCPUは CRISCというC言語に最適化された、という一種のRISCプロセッサで、元々はAppleがNewtonに採用する予定だったものである。ところが、Appleはこれに満足しなくて、当時まだ無名だった英国のAcornが開発していたARMプロセッサをNewtonに採用してしまい、AT&Tは大口顧客を失ってしまった。恐らく、AT&T社内では半導体部門としてHobbitの中止を判断したと思われる。Go/Eoを買収した端末部門は寝耳に水だったのかもしれない。 AT&Tの半導体部門はその後 AT&T Micro Electronicsに分社され、さらに AT&Tのハードウェアビジネスとベル研が分離したLucent Technologiesの一部門になった。その後、さらに Lucentの半導体部門は Agere Systemsとなり、AgereはLSI Logicと合併し、LSI Corporation となった。 LSI Corp はその後 Avagoに買収された。Avagoは元々は HPの部品部門であった Agilentから半導体部門が分離した会社である。さらに2016年にAvagoはBroadcomを買収して社名をBroadcomに変更した。

 
Newton.

言わずとしれた、元祖 “PDA”である。 Apple Newton も1993年に発売されている。 Newtonの発売は恐らく John Sculley 時代のAppleでもっとも注目を集めたイベントだったのではないかと思う。 PDA (Personal Digital Assistant)という言葉を定義し、1998年までマイナーチェンジを繰り返し発売された。 John SculleyはNewton 発売後すぐにApple CEOを辞任してしまう。その後、1997年のSteve Jobs復帰後は Macintoshに集中するためにNewtonは葬られてしまうが、2007年のiPhoneで今度こそ真のPDAといえる製品を出した。

1280px-apple_newton_and_iphone

Newton と 初代iPhoneを比較。画面の解像度が同一である。 (Wikipediaより)

 

 

John Sculleyは Newton 発売より5年前の1988年に“Knowledge Navigator”という歴史的なコンセプトビデオを発表している。

 

Newtonはこのコンセプトへの第一歩であったが遠く及ばないものであった。このビデオはいまだに今後のiPhoneなどの製品が向かっている方向を示していると思う。それを実現するのが Appleなのかどうかはまだわからない。 約30年前のビデオがその後の技術の進歩を予言し、そしていまなお、現実的な目標としてみることができる、というのは驚異的なことだと思う。

 

5年ほど前の Forbesにこのビデオについての記事がでていた。

How Apple Invented The Future (and the iPad) in 1986

 
よく日本の電機メーカーや通信事業者が展示会用に「未来コンセプトビデオ」を制作しているが、数年後に見るに耐えるものはどれぐらいあるだろうか?

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